クエント・ケッチャムは、旧BSAAから所属する最古参とも言うべきエージェント兼技官である。
その技術と発想力、なにより研究と開発に打ち込む情熱的な姿勢は他の技術開発部員の追随を許さなかったが、反面、エキセントリックとも言える性格と趣味、行動が災いし、人を指導、監督する資質はないというのが、周りの者による一致した見解であった。
それ故に名誉職的な扱いとなる部長代理補佐という肩書きに甘んじているわけだが、本人はそれを気にする風はなく、研究開発費を用立てする経理部門に対し無理難題を通す時のみ、その肩書を思い出すぐらいであった。
BSAAきってのメカギーク(オタク)であり、彼が任務時に装着する特徴的なヘッドセットも、自身で考案・開発したものだ。
組織の中を飄々と動き回り、誰の顔色を伺うこともなく研究に没頭するこの男が、今、窮地に立たされていた。
モニター越しに発せられる無言の圧力に気圧され、油汗をかきながらうつむき、時々上目がちにモニターの先にいる人物の表情を伺う。
喉の奥から絞り出された声はかすれ、モニターの先に届いたのかどうかもわからない。
昔の知り合いが優秀なガンスミスを探しており、その際に目にしたジルのサムライエッジ、クエント自身が数年前に制作した旧サムライエッジのリファイン版ともいえる「サムライエッジA1」の制作者を紹介してほしいと言ってきたのだという。
最初は断るつもりでいた。
研究と開発はいくつも同時並行で走っていたし、新しいアイデアはひっきりなしに溢れだしてくる。
今さら銃のカスタムなど、と思ってはいたが、依頼主の名前を聞いて気が変わった。
BSAAには、オリジナルイレブンと呼ばれる伝説的な人物が何人かいる。
前述のジルもその一人だが、そのパートナーであるクリス・レッドフィールドも、まさに生きる伝説とも言うべき人物であった。
そのクリスが、かつて所属していたアメリカ空軍、その当時の同僚であり、その後、バイオテロ史に刻まれる有名な洋館事件では、その渦中にあったラクーン市警特殊部隊「S.T.A.R.S.」にも共に所属。
BSAAにも一時籍を置き、今はBSAAのアドバイザーという立場でバイオテロと戦い続ける男、それがバリー・バートンである。
そしてなにより、あの名銃「サムライエッジ」のオリジナルを、ガンスミスのジョウ・ケンドと一緒に作り上げた男でもあった。
そのバリーが、銃のことで自分を頼ってきた。
これは技術者として大いに誇るべきことと言える。
バリーの要望はシンプルであった。
BSAA設立当初、バイオテロという通常の戦闘にはない特殊な状況に対処可能な専用装備の必要性を説いたクエントは、かつてラクーンシティ市警特殊部隊S.T.A.R.S.がM92Fを独自にカスタマイズした「サムライエッジ」に着目。
元S.T.A.R.S.であり現BSAAであるジル・バレンタイから借り受けた「サムライエッジ」を研究・検証し、新たにM9A1ベースで「サムライエッジA1」を作り上げている。
その後、この銃は対バイオテロの最前線で活躍しているジルに提供されたが、その際にグリップにはS.T.A.R.S.のメダリオン、スライドにはS.T.A.R.S.とカスタムショップ・ケンドの刻印が追加されている。
かつてクリスやジルと共に「洋館事件」から生還した、元ラクーン市警特殊部隊S.T.A.R.S.隊員。現在はBSAAの北米支部に所属している。
S.T.A.R.S.の前にはアメリカ空軍やSWATにも所属していたベテランであり、銃火器のエキスパートでもある一方、家族のことを常に気にかける良き夫・良き父親でもある。
SWAT時代の苦い経験から銃器に関して「パワー信奉者」となったバリーは、S.T.A.R.S.に支給されたカスタムハンドガン「サムライエッジ」をさらに強化すべく、親友のガンスミス ジョウ・ケンドにバリーが理想とするカスタムを依頼した。
ラクーン市警特殊部隊「S.T.A.R.S.」に支給された、M92Fベースのカスタムハンドガン。ガンスミス ジョウ・ケンドが手がけている。
9×19mm弾を.357マグナム級の初速で発射する特殊強装弾を使用するため、スライドロック部の厚みを増したブリガーディア・スタイルを採用。その鋭角的なシルエットとシルバーのバレルがサムライの刃を連想させることから、「サムライエッジ」の名が付けられた。